自民党派閥のウラ金事件で、東京地検特捜部が安倍派の幹部らの“立件見送り”を検討しているとみられることが分かりました。一体なぜなのか見ていきます。
元大阪地検検事の亀井正貴弁護士に話を聞いていきます。亀井さんには“街のギモン”について答えてもらいます。
■街のギモン(1)「なぜ立件を見送ることに?」
まずは50代女性からの「なぜ立件を見送ることになったの?」という質問です。
特捜部はこれまで、事務総長経験者など安倍派の複数の幹部に、任意で事情を聴いてきました。
関係者によりますと、幹部らはキックバックの不記載について「派閥の会長と会計責任者で決めていた」と説明し、関与を否定しているということですが、なぜ“立件見送り”が検討されているのでしょうか?
亀井弁護士:ポイントは会計責任者との共謀が認められるかどうかです。共謀が認められるかとは、誰が決めて誰が会計責任者に指示したか、ということです。
その場合、「会長が決める規則や慣習がありました」と言われてしまうと、「死人に口なし」です。ですから、元会長の細田博之前衆院議長や安倍晋三元総理大臣など、すでにいない人の場合には立証のしようがありません。
一方で、いま生きている人たちについては、事実かどうかはともかく「会長が全部やった」ということで口裏が合ってしまうと、今やっている幹部の人たちが指示した証拠が出てこなくなります。ですから、こういった組織犯罪の場合は、責任を全部亡くなった人にかぶせるのは事件つぶしのよくある手口です。事実はともかくとして、そういったことが起きているということです。
■事務総長の交代後「キックバック継続に」
経緯をみていきます。キックバックを巡っては、複数の自民党関係者によりますとおととしの4月ごろ、当時の事務総長・西村康稔氏と当時の会長・安倍元総理が「キックバックを廃止する方針」を決めました。
ところが安倍元総理が亡くなった後、事務総長が高木毅氏に交代した8月ごろに、キックバック継続へと方針を転換し、キックバックを廃止する方針が撤回されたという形になりました。
特捜部も一連の経緯を調べる中で重要な要素のひとつとして見ているとみられます。にもかかわらず立件見送りを検討しているとすれば、なぜなのでしょうか?
亀井弁護士:ここが一番大きなポイントです。廃止する話がありましたが結局、継続という形になりました、ということは当然、会計責任者だけの一存では判断できません。派閥の責任者たちの相談、決定があったはずと特捜部もにらんだはずです。
ところが、もし事件としてつぶれるのであれば2つの可能性があります。1つは、廃止するというのは提案にしかすぎなかったと。会計責任者は最初から1人ですから、継続してやっていると認識を持っています。あと派閥の責任者らは、廃止するかしないかについて議論したけれども、結局決められずにそのままいってしまったということ。
もう1つは、幹部間ではいろいろ相談したが、誰が何を言ったかがごちゃごちゃになってしまい、「自分はやっていない」だとか、責任のなすりつけ合いをすることによって、誰が決定して誰が会計責任者に指示したかということの証拠関係があやふやになってしまったということ。これら2つのことが考えられます。
さらに議員の場合は、議員と政策秘書や会計責任者の間で密にライン・メールがなされるので、物証が出てくる可能性があります。
派閥の場合には、派閥の会計責任者と幹部議員の間ではそんなにやり取りがないので、欲しかった物証が取り切れなかったという面があるかもしれませんが、本来はここで突破すべきだと思います。強行に捜査を進めるべきであったと思います。
■街のギモン(2)「権力には検察も弱いのか?」
街の人からは、こんな率直な疑問も聞こえてきています。70代男性からの「権力には検察も弱いのか?」という質問です。これについてはいかがでしょうか?
亀井弁護士:政治権力が検察に直接影響を及ぼすことは、恐らくこの件ではないと思います。ただ、検察は国民から選ばれているわけではなく、政治家は国民から選ばれています。ですから、国民から選ばれていない機関が、国民から選ばれている政治に対して強い影響力を及ぼすというのは、やはり問題があります。検察、捜査機関としては謙抑であるべきだというような意識は昔からあっただろうと思います。
■街のギモン(3)「なぜ4000万円以上でないと立件されない?」
続いての質問です。50代男性からの「なぜ4000万円以上でないと立件されないのか?」という質問です。
すでに逮捕されている、およそ4800万円のキックバックを受け取って報告書に記載していなかったとされる池田議員。そして立件の方向で捜査が進められているという、およそ5000万円を受け取ったとされる大野議員と、およそ4000万円を受け取ったとされる谷川議員。一方で、その他の議員については立件が難しいとの見方もあります。
なぜ金額によって立件する・しないが決まるのでしょうか?
亀井弁護士:交通事故みたいに明確な基準はありません。ただ、政治資金規正法違反というのが一応、形式犯(不記載・不備)です。これがもし贈収賄などの実質犯なら数百万でも起訴しますし、場合によっては実刑になります。1000万円だったら、ほぼ間違いなく実刑となります。
ところが、形式犯、書くべきことを書かなかったということなので、どうしても基準をどこかで線引きせざるを得ない。その場合、1000万円なのか2000万円なのか3000万円なのか特に基準がないですが、前例として4000万円で起訴、罰金処理された事例があるとか、1億円を超えたら公判請求されて罰金では済まなかった事例がある。そういうことを参考にしながら決めたということですね。
今回の件、非常に多いですから、従来の基準にとらわれず、例えば金額は決めるにあたっての一番大きい基準ですけれども、それ以外の対応の悪質性や組織性、継続性などの点を考えたうえで、さらに金額の基準を改めて設定しなおしてもいいんじゃないかと私は思います。
(スーパーJチャンネル「newsのハテナ」2024年1月15日放送)
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp