日本から約8700キロ離れた国のルーマニア。8000頭が生息しているヒグマ大国を取材しました。命を守る最新のクマ対策が見えてきました。
■“巨大ヒグマ”背後から 急斜面を猛スピード
ゲレンデを猛スピードで駆け下りてくるヒグマ。その速さは時速50キロ。逃げるスキーヤーをどこまでも追い掛けてきます。
ルーマニアのスキー場に突如、巨大なヒグマが出没。驚異的な身体能力を発揮し、スキー板で滑る男性との距離を瞬く間に詰めてきます。わずか数メートル先まで迫り来るヒグマ。スキーヤーがスピードを上げますが、ヒグマは長い距離を執念深く追ってきます。
この緊迫の瞬間を撮影したのはスキーのインストラクター、ストイカさん(53)。番組の取材でヒグマに追われた恐怖を語ります。
スキーインストラクター ストイカさん:「クマが足元に来た時は怖かった。これからクマがどうするつもりなのかと。今、思い出しても鳥肌が立つ」
ヒグマが出没したのは初心者用のゲレンデ。すぐ近くには多くのスキーヤーたちが。ヒグマを追い払おうと、一斉に大きな声を出します。
ところが、人間に興味があるのでしょうか。鼻を高く上げ、においをかいでいます。森には戻らず、雪の斜面から顔をのぞかせます。
スキーインストラクター ストイカさん:「私は生徒たちがいるところに下りなくてはいけない」
生徒たちが待つゲレンデの下側に移動することに。すると、滑り始めたとたんヒグマが追い掛けてきたのです。追われた時間は約3分間。
スキーインストラクター ストイカさん:「スキー客に『離れて、私はクマを止めるから』と言った。あの時は一番怖い場面だった」
何とか距離を取ると、ヒグマはようやく森へ去っていきました。
■クマ大国対策は 監視強化の“共存”
東欧のルーマニアは国土の約5%が自然保護地区です。ヒグマは8000頭ほど生息。ロシア以外では、ヨーロッパ最大のヒグマの生息地で、いわば「ヒグマ大国」です。年末年始には伝統のクマ祭りが行われるほど地域にクマが根差しています。
ルーマニアでは2016年に狩猟が禁止されてから、ヒグマを駆除するのではなく「共存」するという考え方が取られています。
生物学者 イメーチ氏(36):「自然の変化が早いので、クマが人間の定住地に入らずに生活することができなくなっている」
人への被害を減らすため、ヒグマ大国が行っている対策とは。ルーマニア在住の日本人とその夫を取材すると…。
夫 トーマス・セバスチャンさん(34):「クマと遭遇したら、緊急連絡先に『クマが出た』と連絡する。すると人々にアラートが出る。町中に届く」
命の危険が迫っている時に国から発せられる緊急アラート。クマの出没情報も含まれています。「クマアラート」を受け取った日本人の妻は…。
妻 トーマス・麻葵さん(31):「アラート=地震というのが自分のなかにあるので、地震速報かなと思って見たらルーマニア語だったのでよく分からなかったが(英語表記の)ベアと読み取れて『クマじゃん』と。『ここの地域の人は外出しないで下さい』と」
さらに、人への被害が2年連続ゼロの町では画期的な対策が…。
生物学者 イメーチ氏:「モバイルフォン用のアプリを作った」
■「クマアプリ」出没画像“共有”最新クマ対策
ヒグマ大国、ルーマニアで開発された「クマアプリ」とは…。
生物学者 イメーチ氏:「地元の人たちや観光客たちが、自治体と連絡が取れるようにするアプリ」
スマートフォンからアプリに接続すると、クマの出没情報が人々から共有された画像や地図で確認できます。
生物学者 イメーチ氏:「ルーマニアではクマは観光の要素で(クマは)財政的にも重要な存在。だからクマとの衝突を避けることが重要」
ルーマニアでは、2016年から2021年までの6年間でクマが人を襲った件数は154件です。
被害を減らす対策は様々。その一つがクマにカメラを設置し、行動をモニタリングすることです。さらに、人の生活圏との境界に電気柵を張り巡らせるなどハード面の対策も。
そして、非常に重要なのが観光客や子どもたちへの教育だといいます。
生物学者 イメーチ氏:「どう行動するのか、どうやってクマとの衝突を回避するのか、基本的な知識を持つことが必要。こうした対策を行って去年と今年は被害をゼロに抑えている」
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp