北海道の町で緊迫の度合いが高まっています。気温マイナス9℃、積もった雪の上で木に“背こすり”をするヒグマ。12月に入り、本来であれば冬眠の時期にもかかわらずクマの出没が相次いでいます。
■きょうも出没 いまだ冬眠せず?
積もった雪の上に付いた大きな足跡。ヒグマが歩いた形跡です。先月27日に地元の住民が撮影しました。場所は北海道東部にある知床半島の羅臼町です。
足跡をよく見ると、上側に進んでいるものと下側に進んでいるものの両方が確認できます。ヒグマの足の幅は約15センチ。雄の成獣の足跡とみられ、その大きさから体重は200キロ以上と推測されます。
番組の取材班は今月1日に羅臼町へ。ヒグマの足跡を撮影したのは猟友会の部会長を務める桜井憲二さん(60)です。1日も住宅地から近い林道にヒグマの足跡が…。
羅臼猟友会 桜井憲二部会長:「これ全部、行ったり来たりした跡」
■師走のヒグマ -11℃で“背こすり”
人の生活圏に出没するヒグマが増えたことを受け、桜井さんは町内に複数の自動撮影カメラを設置しています。1日に映像を確認すると…。
羅臼猟友会 桜井憲二部会長:「12月1日午前5時、きょう太い木に背こすりしている」
午前5時58分に気温マイナス11℃のなか、ヒグマが木に背中をこすり付けている様子が映っていました。においを付けて存在をアピールする「背こすり」という行為です。さらに…。
羅臼猟友会 桜井憲二部会長:「これも12月1日午前2時、これはでかい」
午前2時24分にも雄のヒグマが出没しています。12月はヒグマが冬眠する季節。ところが…。
羅臼猟友会 桜井憲二部会長:「まだ冬眠していない。きょう(12月1日)だから」
冬眠の時期を迎えているにもかかわらず、活動を続けるヒグマの姿が次々と捉えられていました。
■ヒグマ出没“倍増” 緊張高まる北海道
羅臼町では今年、ヒグマの目撃が540件で過去最多を記録。すでに去年の2.5倍に上っています。8月に町役場に近い通りでクマと遭遇した住民は…。
クマに遭遇した住民:「4、5回は目撃している。子グマを連れている場面も見た。怖いですよ」
今月1日もクマの出没情報がありました。
羅臼町 産業創生課 大沼良司課長:「いち早く現地に通報を受けて行く作業を繰り返している。住民の目の前にいたり、通学路にいたり、非常に多かったので危機感を持っている」
町内に仕掛けられたカメラには6月、推定300キロ級の巨大ヒグマが映っていました。映像を調べた結果、この巨大ヒグマの他にも母グマと子グマなど、町内に出没するクマは常に7頭から8頭いることが分かりました。撮影した桜井さんによりますと、今年は例年に比べて2倍の数だといいます。
羅臼猟友会 桜井憲二部会長:「町内に何カ所か(カメラを)仕掛けているが、こっちでも映った、こっちでも映ったという感じで数が増えた、格段に。前は人里近くに次から次へと映ることはなかったが、クマも人と同じで慣れる、だんだんと」
ヒグマの生々しい爪痕が残っています。
先月25日には気温マイナス9℃、積もった雪の上でヒグマが背こすりする姿が。ヒグマはいつ冬眠するのでしょうか。専門家は警鐘を鳴らしています。
北海道大学大学院 獣医学研究院 下鶴倫人准教授:「冬だからといってクマのリスクがなくなるわけではない」
長年の調査からヒグマの体形がその鍵を握ることが新たに分かってきました。
■カギは“クマの体形”冬眠時期
ヒグマが400頭から500頭生息していると言われる知床半島でヒグマの研究を長年続けている北海道大学の下鶴准教授。ヒグマの生態を知るため、これまで糞(ふん)を2000個以上も採取。そこから分かることは…。
北海道大学大学院 獣医学研究院 下鶴倫人准教授:「主に春先、6月くらいから11月、冬眠前までの1年間、活動期の食べ物の変化を調査してきた」
現地調査で判明したのはヒグマが季節によって何をどのくらい食べているのか。その結果をまとめました。
北海道大学大学院 獣医学研究院 下鶴倫人准教授:「春先から初夏にかけての冬眠明けの時期は草やアリなど比較的、栄養価の高くないものを食べて何とか飢えをしのいでいる。一方で、8月に入ってくると少し標高の高い所に生えているハイマツという低木の松の実を食べたり、8月後半になるとマスが遡上(そじょう)したり、9月後半にはサケであったり、ドングリの実などを食べることができる。高栄養のものを一気にたくさん食べることで一気に太って冬眠に備える」
過去のヒグマの画像を比べてみると一目瞭然。左は8月末、右は10月末の同一個体です。秋の2カ月の間で体重が2倍になるケースもあるといいます。
北海道大学大学院 獣医学研究院 下鶴倫人准教授:「一日に換算すると1キロ以上、太っている計算」
ところが、今年は冬眠に備え蓄えるべき時期に異変が…。
ヒグマの貴重な栄養源であるハイマツやドングリ類が不作。マスやサケも減少し、押しなべて餌(えさ)が不足する事態に。
北海道大学大学院 獣医学研究院 下鶴倫人准教授:「食べ物がないため十分に太れないクマが多く見受けられたのが今年の一つの特徴。ほとんど脂肪を蓄えていない個体も見られているので、個体がどのような冬眠をするかまだ分かっていないことも多い。まだ出没が続いている時期は冬眠の時期だからといって決して油断せずに、これまでと同じくごみの管理など、クマを寄せ付けない対策を引き続き続けることが大事」
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