今年1月、とある会場でニシキゴイの世界大会が行われていました。1889匹ものニシキゴイが東京に集結しました。
日本・世界中から集まった愛好家が世界1位を目指す、まさにニシキゴイのワールドカップ。果たして、世界1位に輝いたのは?「泳ぐ宝石」を巡る外国人愛好家たちの熱き戦いを追跡しました。
■自慢のニシキゴイ1889匹出品…5割が外国人愛好家
今回で53回目を迎えた「全日本総合錦鯉品評会」。今回、参加するニシキゴイの所有者は、実に5割が外国人愛好家です。日本の養鯉場に預け育てられた、自慢のニシキゴイ1889匹が出品されました。
大きさや品種など、様々な部門に分けられ、優勝などが決められます。
2019年には、2億300万円で取引されたニシキゴイが、この大会で総合優勝をしています。
ベルギーから参加した男性。
ベルギーの愛好家:「自宅の池では、130匹のニシキゴイを飼っているんだ。ニシキゴイは本当に美しいよ」
タイでカメラマンをしているという男性。
タイの愛好家:「今回は45センチの『秋翠((しゅうすい)』という品種を出品したんだ。自宅では40匹のニシキゴイを飼っているよ」
■審査の現場にカメラ…「この大会はレベル高い」
今回特別に、審査の現場に追跡のカメラが入りました。
審査員は、ニシキゴイの生産者や販売業者から選ばれたニシキゴイのプロ80人。
審査員:「このコイがお薦めの方?いない?」
採点の基準は大きく3つ。最も重要なのは「体型」。健康的で力強さを感じるかどうかがポイントです。
次は「色彩」。赤、白、黒などが明るく美しく、色にムラがないことが高評価になります。
そして最後は「模様」。前後左右の色のバランスが採点されます。
果たして、厳正な審査の結果は?
タイから参加したエーさん(32)。85センチの「変わり鯉」という部門で、受賞しました。
エーさん:「こんなに大きな大会で、賞がとれて光栄です」
イギリスから参加したドナルドさん(62)。体長80センチの「大正三色」という品種を出品しましたが、惜しくも部門の準優勝という結果になりました。
ドナルドさん:「この大会は非常にレベルが高いから、なかなか優勝は難しいよ」
■受賞で…将来タイでの販売価格“10倍”に
取材中、見覚えのある男性を発見しました。以前取材した、タイで巨大な養鯉場を経営しているニミットさん(51)です。出品したニシキゴイが見事、受賞しました。
わずか12センチと小さなニシキゴイですが、「色彩」や「模様」の美しさから将来性を買われての受賞となりました。
となると、気になるのは、その後のお値段。
ミニットさん:「(Q.賞を取るとニシキゴイの値段が上がる?)値段は10倍になるよ」
なんと受賞したことで、将来タイでの販売価格が10倍にもなるといいます。
一方、アメリカから来日したネイマンさん(38)とスミスさん(24)。今回、賞は逃しましたが、2人にとってニシキゴイは、「愛のキューピッド」だといいます。
スミスさん:「ニシキゴイのことを何も知らなかった私に、彼が先生として色々と教えてくれたの」
ネイマンさん:「(Q.交際のきっかけがニシキゴイ?)コイはすごい!」
2人は現在、アメリカ南部にあるテネシー州で養鯉場を経営。日本から仕入れたニシキゴイを販売しているといいます。
その中で、ネイマンさんイチオシを聞きました。
ネイマンさん:「『緋写り(ひうつり)』という品種で、95センチあるんだ。大きくて質の良いニシキゴイだから5万ドル(約665万円)で販売しているよ」
■ニシキゴイの将来予測できる「シゲルさん」
実は、ネイマンさんには、「ニシキゴイの匠」と尊敬する師匠がいるといいます。
ネイマンさん:「新潟にシゲルさんという、すごいニシキゴイの職人がいるんだ」
スミスさん:「小さいニシキゴイを見ただけで、将来どんなニシキゴイになるのかを完璧に予測できるのよ!」
ニシキゴイの将来を予測できるという「シゲルさん」とは?取材班が向かったのは、豪雪地帯として知られる「ニシキゴイ発祥の地」の新潟県小千谷市です。
この「ニシキゴイの里」に、世界中の愛好家が一度は訪れたいと憧れる養鯉場があるといいます。
大日養鯉場には、この日も、ニシキゴイの世界大会に参加した外国人愛好家が養鯉場を訪れていました。
敷地内には、5つの養殖ハウス。その中の1つに入ると、8個のプールに数百匹のニシキゴイがいます。
オーストラリアの愛好家:「こんなに品質の高いニシキゴイを今まで見たことがない。信じられないよ!」「(Q.どのニシキゴイが欲しいですか?)全部だよ!」
■職人「四季がない国ではきれいにならない」
インドネシア人の愛好家。日の丸模様が人気の「丹頂」というニシキゴイの購入を検討中だといいます。
インドネシアの愛好家:「日の丸模様が頭の中心にあって素晴らしいよ。さらに赤い色が、これからもっと濃くなるだろうから将来が楽しみだね」
この養鯉場のニシキゴイの相場は数百円から数千万円と幅が広く、美術品と同じように、値段は交渉で決められるといいます。
このニシキゴイを育てているのが、アメリカ人のネイマンさんが師匠と仰ぐニシキゴイ職人・間野茂さん(46)です。
その匠の技が「ニシキゴイの選別」。幼いニシキゴイの成長を瞬時に予測し、選別します。
間野さん:「見て、すぐ分かります。基本的に白と黒で見せる鯉なんですけど、こういう所があとで墨(黒色)が出てくるんですね。こういう魚って面白いんですよ」
右側が将来有望なニシキゴイ。左側は普通のニシキゴイといいます。
間野さん:「見た目の模様は見るんですけど。あと身体の体形、色つや」
この道、26年。これぞ世界をうならせる匠の技。さらに、日本独自の気候が、ニシキゴイを美しく育てるといいます。
間野さん:「温度が下がると、肌の白とか赤がギュッとしまってくるので。四季がない国では、きれいにならない」
■値段交渉、購入者の予算は200万円…果たして?
インドネシアの愛好家:「日本の職人が育てるニシキゴイは世界で一番だよ。『スバラシイ』」
これから茂さんと値段の交渉をするといいます。この日の予算を聞いてみると…。
インドネシアの愛好家:「1匹200万円くらいで考えているよ」
男性が目を付けたのは「空鯉」。ニシキゴイの中で、一番好きな品種だといいます。
そして、いよいよ値段交渉開始。職人の茂さんが提示した金額は…。
間野さん:「ワンミリオン(100万円)…」
インドネシアの愛好家:「OK!」
このニシキゴイが100万円、男性は購入を即決。そして、満足そうなこの表情です。
■ロシアの愛好家「戦争よりも断然ニシキゴイ」
一方、東京で行われたニシキゴイの世界大会は、総合優勝をかけ決戦投票が行われようとしていました。
残った2匹は、所有者は別々の中国人。広島県の養鯉場が育てたニシキゴイ「大正三色」、あの2億円で落札されたニシキゴイの生産者です。
そして、小千谷のニシキゴイ職人・茂さんが育てた「昭和三色」です。
総合優勝は、無記名の投票によって行われます。果たして、世界1位は?
「総合優勝は3番プールの(広島の養鯉場の)大正三色に決定しました」
阪井養魚場(広島)・阪井健太郎社長:「ほっとしています」
1889匹の頂点に輝いたのは、中国人が所有するニシキゴイ「大正三色」でした。
一方、惜しくも世界第2位となった茂さんは…。
間野さん:「やっぱり誰よりもきれいなすごいニシキゴイを皆目指して作っているので。絶対に負けたくないですね。とにかく良いニシキゴイを作っていきたいなと。それでニシキゴイの伝統は守られると思う」
今回取材した愛好家の中には、ロシアから参加した男性もいました。
ほとんど馴染みのない日本のニシキゴイをロシア国内にも広めていきたいといいます。
ロシアの愛好家:「ニシキゴイを通じて、世界中の人々と仲間になることができる。その可能性をこの大会で感じました。戦争よりも断然、ニシキゴイのほうが素晴らしい」
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp