4年ぶり“制限なし”の夏休みを迎えた日本列島。海ににぎわいが戻ってきましたが、一方で海難救助の要請も相次いでいます。事故の一報を受け、ヘリで現場に急行するのが海上保安庁、最高峰のレスキュー部隊「特殊救難隊」です。「親子が流された」「急病人を搬送せよ」など、緊迫の一部始終に密着しました。
■夏本番の緊張感 出動指示と撤収が3度続いた一日
特殊救難隊、通称“特救隊”の基地は、東京・羽田空港の一角にあります。
基地では、6人1チームの6隊が交代で24時間の当直体制を敷き、トレーニングや訓練をしながら待機。出動の指示があれば、羽田からヘリコプターや航空機などで日本全国に出動します。
7月の3連休、列島各地の海水浴場は、たくさんの人でにぎわっていました。
午前11時半、司令センターから電話が入ります。
神奈川県真鶴町の海岸で、SUP=スタンドアップパドルボードをしていた親子が沖に流されたという通報です。
現場で捜索と救助にあたれとの指令。親子を見つけたら海中で救助する可能性があるためウェットスーツに着替えます。
指令から10分でヘリコプターへの乗り込み完了。しかし、ヘリの離陸直前に、親子が無事発見されたとの知らせが入りました。
第2隊 加藤大輔隊長:「SUPは上に立ってこいでいるだけなので、結構沖まで出ちゃう」
SUPは浮力のあるボードに乗っているだけなので流されやすく、同様の事故が急増しています。
安堵(あんど)しているのもつかの間、今度は茅ケ崎市の海岸で遊泳者が2時間行方不明になっているとの通報です。
第2隊 野田健斗副隊長:「おそらく捜索から始まると思う」
第2隊 小島直人隊員:「2時間流されているのでCPA(心肺停止)あるかと思うので」
ヘリで現地へ急行します。
ヘリ出発から15分後、男性が心肺停止状態で見つかったという情報が入りました。出動指示と撤収が3度続いた一日、隊員たちの間では夏本番の緊張感が高まっていました。
■ダイバー7人が2時間以上漂流 救出の一部始終
マリンレジャーが盛んな沖縄では6月、あわやという事故がありました。
地元の海上保安部が糸満市の沖合に駆け付けました。そこには、ダイビングをしていた男女7人が行方不明になり海を漂っていました。
ダイバーたちは海上のブイと自分をロープでつないでいましたが、何らかの原因でブイからロープが外れ2時間以上流されていました。
大きな波に漂うダイバーたち、体力の限界が近づいてきます。ダイバーの体からボンベを外し、つり上げ準備を急ぎます。
その後、7人のダイバー全員を無事救助、命に別状はありませんでした。
■特救隊 船舶火災や危険物にも対応可能
海難救助の要請が増える夏。特殊救難隊は、その高度な能力を生かし、特殊な海難にも対応します。
先月19日、東京湾でプレジャーボートが炎上しました。ボートには、10人が乗っているとの情報も…駆け付けた消防の船などが消火にあたっていました。
現場の位置を確認したり、消火器材の選定を進めていきます。実は特救隊は、船舶火災や危険物を載せた船にも対応できる特殊部隊なのです。
第1隊 千木良優隊長:「乗組員については付近の航行船舶に救助されているようなので、曳航(えいこう)とかになるかもしれないから」
乗っていた10人は無事救助。特救隊には、船の消火と安全な場所へ船を曳航するよう指示が出ました。
特救隊が現場に到着すると、すでにボートは沈没していました。
視界が悪いなか、この船が他の船の邪魔にならないよう目印のブイをつける作業をして任務を終えました。
■様々な状況を想定して日々“過酷な訓練”
特救隊のメンバーは、様々な状況を想定して日頃から訓練を積み重ねています。
隊員たちがゴーグルの中に目隠しの布を入れています。あえて視界不良の状態を作り、手探りで水中の障害物を通過して目標に向かっていきます。転覆した船や沈没した船の中で捜索することを想定した訓練だといいます。
第2隊 福島一輝隊員:「実際に(海中の)油とかで見えない所というのがあって。訓練でできないことは実動でもできないと思っているので、自分たちで負荷を高めながら訓練している」
別の訓練用プールでは、実際の海難現場で、自らの体のみを使って船や岩場によじ登るための“現場到達力”を高める訓練をしていました。
海難救助のまさに“最後の砦(とりで)”。どういった状況でも助けを求める人のもとに到達し、救出できるように日々訓練に励んでいます。
■海上で急病人発生 ヘリから救出の一部始終
八丈島の沖合。海上保安庁の船で、急病人が出ました。
第4隊 草野優太隊長:「2名、2名で行こう!」「本人が歩けるなら、ヘリが来たら船尾まで歩いてきてもらいますか?」
向かうのは、特救隊5年目のベテラン救急救命士・高田佳典隊員と2年目の山下大輔隊員です。
羽田から南東に、およそ383キロの海上。船の上に特救隊が到着しました。時速10キロほどで進む船の船尾、およそ2メートル四方の小さなスペースを目がけてロープで降下します。
痛みにうずくまる男性をつり上げポイントへ誘導。ヘリから降りてきたフックを男性のハーネスに固定、高田隊員が男性を抱きかかえて一緒に上昇していきます。
高田隊員:「状態変わってないですか?痛いところ変わってない?」
続いて、山下隊員が戻り、10分ほどで救助が完了しました。
男性は八丈島で待機していた航空機に乗り換え、羽田に到着。病院に搬送され一命をとりとめました。
山下隊員:「今回、一番最初にヘリコプターから船に降下する役割をやらせてもらって、ちょっと緊張はした。(高田隊員は)ベテランの頼りになる先輩なので、かなり心強かったです」
■大雨災害でもヘリで現場に…
日本列島は、すでに台風シーズンに突入しています。
特救隊は、大雨による災害時も救助活動に派遣されることがあります。
海でも陸でも助けを求める人がいれば必ず救い出す。“空飛ぶ海猿”特殊救難隊の夏はまだ終わりません。
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