ホテルや旅館で従業員に土下座を強要したり、過剰なサービスを繰り返し求めたりする、迷惑客の宿泊を13日から拒否できるようになりました。こうした“カスタマーハラスメント”は宿泊業に限らず、様々な業種で問題となっています。
■現場の対応は…
栃木県日光市にある『旅籠なごみ』。地元の食材をふんだんに使った料理がこの宿の自慢です。その日は、2日間かけて漬け込んだ、栃木産ブランド豚のみそ焼きがメインでした。
旅籠なごみ 神尾和彦社長:「『メインが豚とは何事だ』『私はイセエビを食べに来た。イセエビを楽しみに来た』と。従業員に対して、こう腕をつかんで『イセエビを食べたかったんだ』」
栃木県に、イセエビがいる海はありません。それでも納得しない客は、1時間にわたってクレームを続け「口コミに書くぞ」と脅したといいます。
これまで原則、「宿泊を拒んではならない」としていた旅館業法が、13日から変わります。悪質な迷惑行為、カスタマーハラスメントを行う客の宿泊を拒むことができるようになりました。『旅籠なごみ』でも、さっそく従業員に周知徹底。
神尾社長:「何かありましたら、必ず私の方に相談してほしい。皆さんの方で何か質問とかあれば、受け付けます」
実は、人手不足もあって外国人のスタッフに支えられています。
メキシコ人従業員:「私の国は、お客さんに気に入らないことがあるか、最初は聞く。もし気に入らなかったら、他のホテルを探した方が一番いいと思う」
神尾社長:「懸念事項もある。宿泊拒否を実際にできるかどうか。他に宿泊施設を探せるのかという不安も。そうならないためにも、サービスクオリティーを上げていき、お客様もこの法改正で我々に対する理解をさらに深めて頂けるのを期待」
■「役立たず」恫喝も…
カスタマーハラスメントは旅行業界に限った話ではありません。
客:「あんた本当に鈍いな。頭、悪いんじゃないの」
店員:「すみません」
客:「この役立たずが」
これらは、脅迫や威力業務妨害にあたる可能性もあり、厚労省は「企業側に労働者を守る義務がある」としています。
■クレームで消えた“伝統”
カスタマーハラスメントの影響は、つまようじにも。創業から60年以上、刻まれていた、持ち手の溝が理不尽なクレームで消えました。
菊水産業 末延秋恵社長:「『いつもより溝が深い』『いつもより浅い』。飾りとして(溝を)つけたのが始まり。その飾りに苦労している。従業員も、そこにかける労力が増えてしまうので、廃棄も減らせるようにと考えてこうなった」
■AIを相手に…対策する企業も
カスタマーハラスメントによる被害を減らすため、先端技術による対策も始まっています。『iRolePlay』では、AIがお客さんとなって、様々な接客業のシミュレーションをすることができます。井澤健太朗アナウンサーが実際に体験しました。
“宿泊客”役のAI:「俺は特別な客だ。今すぐ部屋を用意しろ。こんなサービスが許されると思っているのか」
井澤アナウンサー:「申し訳ございません。現在、部屋を清掃中です。あと30分ほどお待ちいただけますか」
“宿泊客”役のAI:「許されない。他の客よりも優先して部屋を用意しろ。こんな待遇は初めてだ。お前の名前はなんだ。上の者を呼べ」
井澤アナウンサー:「私、井澤と申します。全てのお客様を平等に対応しておりますので、もう少々お待ちいただけますか」
“宿泊客”役のAI:「平等ってなんだ。俺は平均以下の待遇を受けるために、ここに来たんじゃない。無能なスタッフが」
井澤アナウンサー:「AIが相手なんですけど、グサッとくるような感覚です」
このシステムは、顧客との対話力を高めるトレーニング用に開発されました。業種ごとにカスタマイズが可能で、来年春までに、大手製薬企業や保険会社など、10社程度での導入を目指しています。
インタラクティブソリューションズ 関根潔社長:「(Q.相手がAIである意義は)人対人でやった場合、相手が怒っているお客様役。でも、それが皆さん社員。相手が気を遣ってものを言う。これだと、あまり再現性がない。AIとやる方が、より教育に向いているのではないか」
■広がる“カスハラ”深刻な実態
“カスハラ”が増えるなか、受けた側の心身の不調も大きな問題になっています。連合が行った調査ではこういったデータもあります。
「出勤が憂鬱」38.2%
「心身に不調」26.7%
「眠れない」17.6%
「退職・転職した」10.5%
犯罪心理学が専門で、カスタマーハラスメントの調査・分析などを行う、東洋大学・桐生正幸教授に聞きました。桐生教授が全国2060人を対象に行った調査では、約45%の人が「“カスハラ”した経験がある」と回答しています。
“カスハラ”をする人にはどんな特徴があるのでしょうか。
【性格・感情の傾向】
『正義感が強い』:自分の意見が正しいと考え、他人にも押し付けがち。
『自尊感情が高い』:知識・経験が豊富で、他人の意見を受け入れづらい
【職業的な傾向】
『仕事の“キャリア”がある』:自分の会社など、労働環境での常識を外に向けても無意識に強いている。
■今後の課題について
桐生教授:「旅館業法が改正されたのは大きな一歩だが、“長時間の拘束”や“クレームの過剰な繰り返し”など、具体的な行為には、罰則を含む包括的な法令導入を検討すべき。それと同時に“時間に厳しい”“おもてなしは当たりまえ”“小さなミスも謝罪”こうした日本の企業文化が“カスハラ”を生んだ側面もある。今後は寛容さをもつなど“価値観”を変える必要がある」
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