16日もクマによる被害が起きています。番組が入手したのはクマに取り付けた「目線カメラ」です。何を見て、どんな生活をしているのでしょうか。映像から意外な生態が見えてきました。
■エサは?どんな生活?詳細分析
野生のツキノワグマの首に取り付けたカメラの映像には、クマの下あごが映っているのが分かります。「視線カメラ」から見えてきたのは、私たちが知らない“クマの世界”。いまだ謎が多いクマの生態。この映像を今回、独自に入手しました。
クマはどんな生活をして、どうやって餌(えさ)を探しているのでしょうか。富山県内で撮影された“クマ目線カメラ”の映像を詳しくひも解き、今、全国的に出没が相次ぐ「アーバン・ベア」の課題に迫ります。
富山県 立山カルデラ砂防博物館 白石俊明学芸員:「アーバン・ベアの一つ前の段階に言われているのが新世代グマと呼ばれるもの」
人を恐れないという「新世代グマ」が急増する異例の事態。富山県では今年、市街地に進出するクマが続出し、その目撃や痕跡は去年の2.5倍にも及んでいます。
■72歳と59歳の男性が負傷
その富山県は16日、猟友会や警察が出動。物々しい雰囲気に。午前10時ごろ、富山市で人身被害が起きました。72歳の男性が顔面を負傷して全治2カ月、59歳の男性が左の太もも付近を負傷して全治1カ月のけがです。
地元自治振興会の会長:「柿を落として積んでいた。下に落ちた柿。そこにクマが来て襲われた。(襲われた男性が)悲鳴上げる、びっくりして。近隣の人が悲鳴を聞きつけ助けに行った。助けに行ったらまた襲われた」
現場に居合わせた人によると、柿を取る棒で抵抗し、クマは逃げていったといいます。辺りにはその痕跡がいくつも残されていました。クマは見つかりませんでした。
猟友会:「(襲ったクマは)成獣」
今年に入り、富山県内ではクマに襲われて1人が死亡、8人がけがをしています。
■“クマ目線カメラ” 驚きの生態
16日、番組の取材班が向かったのはクマ被害が急増する富山市の市街地です。市内で確認されたクマの目撃や痕跡の情報は15日だけで合わせて13件。目撃が7件、足跡や糞(ふん)などの痕跡が6件でした。
「アーバン・ベア」と呼ばれる都市型クマがなぜ増えているのでしょうか。その訳を探るため番組が入手したのが“クマ目線”の映像です。
富山県の山の奥に生息する野生のツキノワグマ。首にカメラを設置して行動を観察する調査が行われました。鼻を地面に近付けて匂いをかぎながら何かを食べています。映像を止めてよく見ると、木の実が落ちているのが分かります。研究を行った後藤優介さんによりますと、これはブナの実だといいます。アゴで落ち葉をどかしながら、小さなブナの実を器用に食べています。クマは冬眠に備えて十分な脂肪を蓄えなくてはならず、秋には多くの食物を取る必要があります。
今度はミズバショウの葉や根本を食べています。植物を食べる際には栄養価が高く消化率も高いと考えられる部分だけを上手に分けながら食べているといいます。
■長い舌で… アリの幼虫ペロリ
さらに森を進むと、今度は枯れ木を見つけました。何をしているのでしょうか。木の割れ目を爪でかき分けながら口を付けています。この研究をした後藤氏によりますと、木の中にいるアリを食べているといいます。クマは長い舌を使ってアリの幼虫などを器用になめ取っていることが分かりました。
クマが餌を探す時は鋭い嗅覚で匂いをかぎ分けているといいます。開けた場所に出ると、鼻を上げて、匂いをかいでいるのが分かります。
雑食で知られるクマは他にも、オニグルミの実やミヤマシシウドの茎なども食べています。ニホンミツバチの巣の食べ痕も見つかりました。目線カメラは雄のクマが雌に出会う場面も捉えています。
5年間に及ぶ調査の結果、新たに分かったのは、クマは春から秋までの活動時間のほとんどを食物を探して採食する時間に費やしているということです。ただ、今年はクマの主食と考えられるブナの実が富山県全体で「不作」。東部ではさらに少ない「凶作」となっています。
■「クマっぷ」出没情報に“異変”
富山県が作成しているツキノワグマの出没情報を示した地図、その名も「クマっぷ」です。赤のマークの今年は569件。オレンジのマークの去年に比べて、2.5倍に及んでいます。さらに今年は市街地の中での出没が急増。実に8割が人の活動が活発な地域です。山から離れた海沿いのエリアでも今月11日に子グマらしき動物が目撃されています。
なぜ、市街地へと進出してくる「アーバン・ベア」が増えているのでしょうか。富山県でクマの生態や行動を研究している白石俊明氏は。
富山県 立山カルデラ砂防博物館 白石俊明学芸員:「アーバン・ベアの一つ前の段階に言われていたのが新世代グマと呼ばれるもの。新世代グマというのは、狩猟が下火になって人や猟犬に追われ怖い思いをしたことがない、『人が怖い存在』『里が危ない場所』と学んでいない世代のクマのこと」
「新世代グマ」の増加が市街地での被害につながっていると指摘します。
富山県 立山カルデラ砂防博物館 白石俊明学芸員:「クマなどの野生動物の災害を、自然災害と捉えることは大事。個人個人でできる活動をコミュニティー、集落などとつなげて、獣害に強い街づくりをしていく」
獣害に強い町づくり。富山県の別の町で実際に行われています。
朝日町 農林水産課 竹谷俊範課長:「(かれこれ)十数年、人身被害は発生していない」
■“山からの侵入防ぐ”30km電気柵
新潟県と接する朝日町では17年間、クマによる人への被害が出ていません。その訳は。
朝日町 農林水産課 竹谷俊範課長:「山沿いにフェンスがあるが耐雪型の電気柵。山間部から野生動物の侵入を防ぐ形で整備されている」
山間部に接する地域を中心に張り巡らされたのはクマの侵入を防ぐ電気柵です。その長さは、なんと…。
朝日町 農林水産課 竹谷俊範課長:「朝日町全域で約30キロ整備している」
30キロにも及ぶ電気柵。3億8000万円を投入し、8年前から整備してきました。
朝日町 農林水産課 竹谷俊範課長:「人の被害があるような電気の強さではないが、この線には1秒間隔で電気が通っていて一握りして触れば電気が走る」
クマやイノシシなどから町民の命を守るため、自治体と地域が連携。地元住民が電気柵の維持管理を行っています。
笹川自治振興会 竹内寿実会長:「クマが集落に入ってくることはなくなった。非常にありがたい。目撃情報はあるが人身被害は集落ではない」
朝日町では住民からの要望があれば、今後、電気柵の延長も検討しているといいます。
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