軍事転用が可能な機械を不正に輸出したとして、機械メーカーの社長ら3人が警視庁公安部に逮捕された事件。その後、「起訴取り消し」となり、社長らが、国と東京都を訴えていた裁判で、裁判所は、捜査や起訴が違法だったと認め、賠償を命じる判決を下しました。
大川原化工機・大川原正明社長:「警視庁、検察庁には、しっかりと検証していただいて、できることなら謝罪をいただきたい」
テロを未然に防ぐための取り締まりなどを担当する警視庁公安部。裁判では、その捜査手法が争点となっていました。現役の捜査員が、裁判で「(捜査は)ねつ造ですね。捜査員の個人的な欲でそうなりました」と証言しています。
横浜市にある従業員90人ほどの機械メーカー『大川原化工機』。問題とされたのは、この会社が製造する“噴霧乾燥機”です。液体を高温の状態で噴射し、乾燥させることで粉末にするもので、粉ミルクや医薬品の製造などに使われています。
2020年、生物兵器に転用される恐れがあるにもかかわらず、中国や韓国に不正に輸出したとして、この会社の社長ら3人が、逮捕されました。社長らは、一貫して無罪を主張。しかし、勾留は1年近く続きました。
元顧問の相嶋静夫さんは、逮捕された半年後に容体が悪化。拘置所の中で悪性腫瘍と診断され、その4カ月後に亡くなりました。
相嶋静夫さんの妻:「もう必死で、私は、毎晩、神に祈りましたよ、もう助けて下さいって」
検察が起訴を取り消したのは、初公判の4日前。逮捕から1年半が経って起きた異例の出来事でした。
なぜ“立件ありき”の捜査が進められたのでしょうか。社長らは損害賠償を求め、国と警視庁を管轄する東京都を提訴。27日、約1億6000万円の賠償が命じられました。
判決では、3つのポイントについて、言及されました。1つめが、捜査の過程で警視庁が打ち出した独自の解釈です。輸出規制の対象かどうかを判断するため、経済産業省が定めた省令には、具体的な手法が決まっていない状態。そこで、警視庁は「1種類でも細菌を死滅できる温度が維持できれば該当する」との解釈を作り上げました。ただ、これについて、判決では「経産省に確認したうえでやっている」として、違法性を認めませんでした。
では、この解釈をもとに社長らを逮捕・起訴したことについてはどうだったのでしょうか。
判決で言及されたのは、会社側が「機械の温度が上がりづらい場所がある」、つまり、菌が生きたまま、作業員などのいる周囲へ飛散する恐れがあることから、軍事転用することは難しいと繰り返し説明していた点です。
結局、指摘された場所に関する警視庁の再検証は行われませんでした。判決では、警視庁のこうした対応や、報告を受けていたにもかかわらず起訴した検察の判断などが、違法とされました。
判決:「警視庁公安部の判断は、合理的な根拠が欠如していることは明らか。起訴は、検察官が必要な捜査をつくすことなく行われたものであり、違法」
さらに、実際の発言とは違う調書を作成し、署名させたことも違法と認定されました。
大川原化工機・島田順司元取締役:「公判が開かれないまま332日間、独房に閉じ込められる日本なんだと」
関係者によりますと、起訴直前の相談では、検察側から警視庁に対し、こんな声も出ていたといいます。
検察:「彼らの言い分も一理あるということだと起訴できない。不安になってきた。大丈夫か」
しかし、決定は覆ることなく、起訴へ。
捜査関係者:「正直、突っ走り過ぎたのは否めない。なんで上は止めなかったんだろう…と。上(警察庁)にも情報は入ってるはずなのに」
判決を受け、検察はこうコメントしています。
東京地検:「国側の主張が、一部認められなかったことは、誠に遺憾であり、早急に、関係機関及び上級庁と協議をして、適切に対応してまいりたい」
大川原化工機・大川原正明社長:「長期の勾留で相嶋さんが亡くなった。何で逮捕する必要が、身柄を拘束する必要があったのか。これがやはり一番悔やまれる。謝罪・検証がないと同じようなことが繰り返される。それがされるまでは言い続けたい」
◆なぜ、警視庁は、違法な捜査をしてまで逮捕に突き進んだのでしょうか。
捜査したのは、警視庁の公安部。テロや政治犯罪などを未然に防ぐため、国家の治安を脅かす行為について、捜査や取り締まりを行う組織です。
今回の事件捜査について、公安部関係者は「公安部は取り扱う情報の機密性が高い。1年以上仕込んで、やっと書類送検とかも多い。『上がやる』と言ったら、従わざるを得ない空気感がないと言ったらうそ。それでも“未然に防ぐ”という思いでやっている」といいます。
会社側は機械の構造上、生物兵器は作れないと指摘しています。公安部は、引き返せるチャンスがあったはずです。
別の公安部関係者は「警視庁は『捜査を尽くす』としか言えず、今回の捜査が間違っていたとは言えない。引き返すというのであれば、検察が“起訴”しなければいい」と話します。
また、警視庁幹部は「当時の公安部メンバーの中には『捜査の反省点はある。しかし、やるべきでなかった事件とは思っていない』と話すものもいる」といいます。
今回の判決をどう受け止めるべきか。
元裁判官の法政大学法科大学院・水野智幸教授は「検察は、公安の捜査を“批判の目”で確かめる必要があるが、安易に起訴している。裁判所も、保釈請求が何度もあったにもかかわらず、検察の判断にそって勾留を続けた。警察・検察・裁判所、それぞれのチェック機能が果たせていない。こういったことが判決で示された」と指摘します。
警視庁は、判決内容を精査したうえで、今後の対応を検討するとしています。
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